早速支援団体へ
里親の証書を貰ってから一週間後すぐ支援団体に行きました。
「里親の資格取ってもすぐ子供を任せられるかどうか。私が担当した方は1年半子供を探している方もいます。はやる気持ちは分かりますがこれも縁なんでゆっくりと」
シェパードさんはアドバイスしてくれました。
でも僕達夫婦は同級生が子育てが終わった頃に子育てを始めたいと思う夫婦です。
のんびりなどしてられません。
最初の面接の時凹まされた苦い思い出はまだ拭えてませんが、勇気を絞って子供を紹介して貰おうと支援団体に行きました。
「このアルバムが、ここの団体で支援している子供達です。いい子がいるかどうぞご覧下さい」
支援団体の方は冊子状のクリアファイルでL判の子供の写真が載っているものでした。
子供は3才から6才位までが十数人ほど。
女の子は少なく男の子が多かったです。
僕達は里親から養子縁組の子供を探していて、偶々僕らの探している時期が男の子が集中してたのかもしれません。
もしかしたら僕達が高齢だったので、0歳とかの赤ちゃんではなく、幼児を紹介という事なので十数人の写真だったのかもしれませんが。
写真を見て子供を選ぶシュールな状況。
とにかく僕達の手元には将来の家族のアルバムがありました。
「この子はどんな子ですか?」
奥さんが一枚の写真に手を止めました。
「その子は再来年度小学生になる男の子ですよ。一度毎日新聞の愛の手にも載った事がありまして、その時は写真じゃなくてイラストでした」
担当さんが記事を持って来ました。
見ると確かに僕達が一度見た記事でした。
このように愛の手の記事には子供のイラストを載せる場合もあります。
「名前も偽名で紹介されてました。やはり大きな子供になると個人情報も慎重にしなきゃならないので。彼の本名は…」
担当さんは子供の本名を教えてくれました。
一応ここでも名前は伏せておきたいので、仮にレオナルド君としときます。
「レオナルド君は今養護施設から一時的に里親さんの方で預かって貰ってます。大きくなるにつれて子供を養護施設や他の里親さんの所に移したりするんですが、コロナで移動もままならなくて…」
世の中の混乱に子供達も影響を受けてました。
それでも写真のレオナルド君はそんな世の中の混乱など関係なしに、L判の中で元気いっぱいの表情を僕達に向けてました。
何だか色んな感情が僕の心の中に湧き上がってきました。
「彼の親になる為に僕達が手を上げていいですか?」
僕達の発言に担当さんはニッコリ頷きました。
「分かりました。進めましょう」
里親資格の授与式
年が明けて里親資格を貰える事になりました。
今までの実習を経て養護施設に書いて頂いた推薦状が行政に通った形になります。
授与式は児童相談所で行われる事になりました。
「こちらが認可証になります」
養護施設のシェパードさんが表彰状みたいな形で認可証をくれました。
面接の時、僕の話でよく笑って頂いたチワワさん、家庭訪問に来てくださったドーベルマンさんも、まるで卒業式の保護者のように証書を受け取る姿を見守ってくれてます。
「ありがとうございます」
僕は胸を張りました。
「養子縁組しようと決めてから、気づけば1年以上経ちました。楽しかった面接」
「面接」
「沢山の仲間と触れ合った研修」
「研修」
「挫けそうになった時思い出したケンタッキー」
「ケンタッキー」
流石に卒業式の送辞答辞のような真似はしませんでしたが、僕の心の中では今回の経験が走馬灯のように蘇り涙が出ました。
「さて、資格も得たので気に入った子供がいたらどんどん問い合わせて下さい」
鼻水を垂らしてる僕にドーベルマンさんは優しく語りかけてくれました。
「分かりました。じゃあドーベルマンさんの養護施設に保護されてる子供さん紹介して下さい」
「いえ。私の所には養子に出したいという子供は預かってませんので」
「え?じゃあどうしたら?」
「最初に問い合わせした支援団体に一度相談してみて下さい」
「え?あそこ…」
そこは最初に問い合わせした時、不妊治療の事とか聞かれてプチ切れした所なので、何だか気が引けました。
「いい出会いがあるといいですね」
シェパードさんは僕達の新しい門出を笑顔で見送ってくれました。
里親資格取るまでの研修まとめ
ここで里親資格取る為に僕達が行って来た事をまとめたいと思います。
里親の資格を取るには、児相から行政(都道府県)へ推薦を上げてもらわなければなりません。
その推薦を上げてもらう為に、市町村にある地域の養護施設が研修や面接、相談などフォローして貰い、漸く児相が推薦状を書いてくれる事になります。
推薦状を書いてもらう為、僕達は以下の事を行いました。
養護施設との面接
養護施設の職員さんと夫婦其々マンツーマンで行います。
1人1時間程度。
生い立ち、どんな仕事をしてるのかなど、自分の歴史をアンケート用紙に書いて、職員さんに語ります。
僕達が行った時期はコロナ禍だったので、1カ月に1、2回行う形でした。通常より時間がかかって半年以上行いました。
普通の時で早い人なら三カ月程らしいです。
支援団体研修
各自相や、里親施設で養子縁組を探している子供の情報を管理している支援団体の研修。
週またぎで二日間行いました。
この会合には多数の養子縁組希望の夫婦、里親希望の夫婦が集まります。
まず1日目は他のご夫婦と一緒に何故養子を取ろうと思ったのか、どんな親子関係を作りたいか話し合い、真実告知など実際に養子との関係作りの事についてワークショップをします。
2日目は養子縁組までの手続きの流れ、子供が行う試し行動の説明を受け、実際に養子縁組された家族のお話しを聞く流れでした。
会場には現在養子縁組を希望してる子供の写真もあり、問い合わせも受け付けてました。
(一応資格がないと前に進む事は出来ませんか、すぐ手を上げて資格を取った後すぐ面会出来るケースもあるようです)
家庭訪問
子供を預ける家の環境はどんな感じか児相の方で訪問調査します。
養護施設のシェパードさんと児童相談所のドーベルマンさんに来ていただきました。
家の中は勿論、住む地域の環境などをチェックされます。
養護施設での実習
シェパードさんが勤める民間の養護施設にて行いました。
こちらも週マタギの2日間。
僕達は年齢が高齢ということもあり、乳児ではなく幼児、だいたい三歳~五歳くらいまでの子供と触れ合いました。
一緒に遊んだり、食事を一緒にとったり、昼寝の寝かしつけるところまで行いました。
2日目は子供の運動会を見たり、中学生くらいまでの子供が保護されてる養護施設を訪れたり、視察が主でした。
以上の事を行って僕らは里親の資格を取る推薦状を書いて貰いました。
許可が取れるのは年があけてからとの事です。
僕達が最初に養子縁組を希望してからここまで1年。
コロナだったことと、他のご夫婦の里親希望の問い合わせも多かったみたいで、特に時間がかかりました。
でもその時間の中で血の繋がってない子供と家族になるという事はどういう事だろうと色々考えさせられ、覚悟などが形成されたような気がしました。
もし養子縁組を検討されてる方がこのブログを読まれたら、まずは飛び込んでみるという事も一つの手かもしれません。
養護施設での実習 その3
実習2日目。
午前中に幼稚園で運動会を見た後、午後は子供達が暮らす別の施設の見学でした。
「そこには小学生から中学生の子が生活してます。」
今まで見て来た子供よりお兄ちゃんやお姉ちゃんの年齢の子達が、集団で生活してる施設との事でした。
彼らも親が何らかの理由で育てられなくなり、児相に保護されて生活してる子供たちです。
「こちらです」
シェパードさんに連れられ、到着したのは、普通の住宅地にある一軒家でした。
「どうぞお入り下さい」
玄関の扉を開けると、施設の受付のような窓があり、外の家庭的な建物の雰囲気からガラッと変わってホテルのようでした。
中に入るとリビングで子供達がテレビを見てます。
「こんにちは」
話しかけても子供達は反応しません。テレビに夢中です。
「あ、それBTSのライブ映像?」
中学生くらいの女の子が1人ノートパソコンでYouTubeを見てたので、話しかけたのですが、頷いてくれただけで、僕と奥さんは存在してないかのように何も反応してくれません。
お兄ちゃんの年齢の子供達だし、逆に小さい子供よりも接し易いかなと思ったのですが、思春期バリバリの彼らにとって僕らは物珍しげにやって来たおっさんとおばはんにしか思ってないようでした。
それも仕方ないか…
テレビに集中してる子供達に混じり僕達も内容の入ってこないテレビ画面を静かに眺めてました。
「あたしの部屋に来る?」
沈黙が耐えられなかったのは子供の方でした。
小学生の高学年くらいの女の子が、僕達を彼女の部屋に案内してくれました。
部屋はいくつかあり、一部屋に何人かで共同で使うような感じでした。
中には階段ベットと勉強机が置いてあったり本棚が置いてあったりしました。
「鬼滅の刃全巻持ってるねん。読む?」
子供は嬉しそうに漫画を進めて来ます。
鬼滅の刃の解説を熱心に聞いてると、小学生低学年くらいの別の男の子がおんぶしてと寄ってきました。
強がっても、誰かに甘えたい話かけたいと子供達は感じてるようでした。
午前に引き続き何だか…
どう表現したらいいか言葉が見つからないですが
子供達の姿を見て何だか…
メランコリック?
うーん…
まとめようとして英語にしようとするも何か表現が違うような
とにかく複雑な気持ちになりました
養護施設での実習その2
1日目の実習を終えて一週間後、2日目の実習が行われました。
通しで2日間ではなく週をまたいだスケジュールはコロナのせいなのかは分かりません。
でも子供と触れ合うワクワク感が週をまたいだおかげで長くもてたので何か得した気分です。
養護施設に預けられた子供の中で大きい子は普通の幼稚園に通います。
丁度僕達の実習した時は幼稚園の運動会の日でした。
「先週一緒に遊んだ子供達の幼稚園見に行ってあげて下さい」
シェパードさんに提案されて僕達夫婦は他の親御さんにまみれて児相の子供達の姿を見に行きました。
「先週の子供達すぐ分かるかな」
一日だけ会っただけなのに奥さんも我が子を探すようです。
ただ2人ともシェパードさんに釘を刺されてました。
「子供達の本当の親が来ます。ただ見るだけで手を振ったりアピールするのはやめて下さいね」
わかってはいるのですが、少しモヤモヤしました。色々理由はあるにせよ、子供達を養護施設に預けておいて、こういう時に子供の可愛い顔見に行くなんて。
園児達のお遊戯演舞のコーナーで僕は先週仲良くなった子供達の姿を探しました。
「あ、いた!」
先週泥だらけになりながら遊んだ子供を見つけました。
僕は彼を食い入るように見ました。
子供は笑顔で演技をしてます。
それは一緒に遊んだ時に見せた表情と全く違うものでした。
ふと子供の目線の先に目を向けました。
1人の男性が一生懸命手拍子をしてます。
その手拍子を受けてその子は更に元気いっぱい演技しました。
多分手拍子をしてた男性は本当のお父さんなんだろう。
僕のようなお父さんになりたい人より、子供は本当のお父さんが必要。
今は何らかの理由で一緒にいれないけど、子供はまた本当の親と一緒にいたい。
無茶苦茶当たり前な事を目の当たりににして少し不安になりました。
僕は本当に血の繋がってない子供の親になれるのか?
彼らの親になっていいのか?
養護施設での実習
シェパードさんから養護施設の実習が行われると聞かされた時、思わず僕は近所のアパレルショップに駆け込みました。
「いらっしゃいませー」
その店は、オシャレな海外のアウトドアブランドを扱う店で、僕は当日来て行く服を購入しに来ました。
「えっと…それと…それ下さい」
実習は養護施設の幼児院に行って、子供達と触れ合って育児を体験するというものです。
その幼児院には親の養育が難しいとして、養護施設に一時あづかりされた未就学の子供が保護されてます。
実習の一時的な触れ合いとはいえ、思いっきり子供達と遊んであげたい。
そう思いアパレルに駆け込んだのでした。
「ちょっと、何でこんな高いノースフェイスのパーカー買ってくるのよ!」
買って来たものを見せたら奥さんに叱られました。
未就学の子供達にとってお父さんは大抵二十代、三十代前半です。
僕のような者が行ったらお爺さんだと勘違いしたら子供達が可哀想だ。
そう思い、涙を飲んで高額なノースフェイスに若さの願いを託してクレジットカードをきりました。(本当は前々から欲しかっただけなんですが)
さて、実習当日。
子供達はどんな反応するのだろう?
緊張のおももちをよそに僕達は幼児院に通されました。
「僕は〇〇です」
「私は〇〇です」
中に入った途端子供達が僕達の元に走って来て自己紹介を始めました。
幼児院のスタッフ以外の大人が珍しいのか、とても人懐っこかったです。
実習の内容は子供と遊んで、一緒に昼食を食べる。子供達と触れ合う事が実習の主な目的です。
僕達夫婦は直ぐに子供達と仲良くなり、一緒に遊びました。
「子供はすぐ抱っこしてと言ってくるから体力勝負ですよ」
シェパードさんは子育ては体力勝負と言ってきましたが、割と身体は鍛えてるので、そのへんは余裕でした。
「回してー!もっと回してー!」
子供達を抱っこした状態でクルクル回すと、テンション上げてくれるので、アクロバティックな抱っこを何度もしてあげました。
「キャハハー!」
育児放棄を受けてる可哀想な子供達が多いとの事でしたが、楽しそうに遊んでくれて実習とはいえ僕も楽しい時間を過ごせました。
こんな感じで1日目は楽しく終えました。
「だから、ノースフェイスやめておきゃ良かったのに」
泥だらけになったおニューの服を見て奥さんは口を尖らせました。
その日僕は勉強しました。
育児の時はそのファッションでいいか、一旦立ち止まって考えるのは必要かと。
家庭訪問
貴重な3日間の研修が終わった後も、暫く面接は続きました。
面接が長く続いたのも、まだコロナで実習のスケジュールが決められなかったからかもしれません。
いつ実習が行われるんだろうと頭の片隅に不安を抱えてシェパードさんとチワワさんの面接を受けてました。
「養子取るとなったら、どっちかが家庭に治らなきゃいけないでしょ?だから即決で僕が家庭に入る事になっちゃいましたよ。だって奥さんに比べてスズメの涙にもならない収入なんだから」
「よ!収入格差婚!ギャハハー!」
「コロナで在宅ワーク増えるからってせっかく中古の一軒家買ったのに」
「買ったんじゃなくて買ってもらったでしょ?ギャハハー!」
「今は気持ちを入れ替えて、良い主夫になろうと、YouTubeのバズレシピ見て勉強してます」
「あ、そういや、家庭訪問まだでしたね」
シェパードさんは急に思い出したようにメモを取り出しました。
子供を家庭に入れて大丈夫か?夫婦2人が住む住宅の環境、病院、学校迄の距離などの立地環境など、子供を託して大丈夫か家庭訪問をして確認されます。
僕の料理の腕前を発揮出来るいい機会だぜと膝を叩きました。
「いや、あくまでも調査ですんで、そういうのは断ってます」
賄賂でもてなして点数を稼ごうとしたよこしまな考えは見透かされてしまいました。
そんな感じで後日公共の養護施設の職員のシェパードさんは児童相談所のドーベルマンさんを連れて家にきました。
「えっと2階を子供部屋にしようと考えてまして…」
「まだ子供部屋の事は考えなくていいです。最初はなるべく親の側にいられるようにして下さい」
印象を良くする為に奥さんの放った部屋計画もドーベルマンさんには通用しません。
いつもはゲラが多いシェパードさんも真剣です。
「ま、このくらいのリビングなら子供もゆっくりくつろげそうですね」
「うんうん」
ドーベルマンさんのチェックに印をつけるようにシェパードさんは頷きます。
「小さい子が遊べるくらいの広さの庭はあるんですね」
「うんうん」
「玄関出て直ぐの道は車の往来は少ないですね」
「うんうん」
安全な施設に預けられてる子供が、移って来ても問題なく生活出来るのか?
親になりたい夫婦はどんな人間か?に加えて、どんな所に住んでるか?等総合的に考えて里親の認可は下るようです。
一通り家の内見終えた後、シェパードさんは言いました。
「ようやくスケジュールが調整出来ました。次は実習です」