面会日その1
まだ寒さの残る朝でした。
新しい家族と初めて出会う面会日がとうとうやって来ました。
思い起こせば養子縁組で新しく家族を作ろうと決断したのは、寒さが始まろうとした冬の始まり。
僕らはそこから3度の冬に身を縮ませながらも、漸くこの日にたどり着けました。身の引き締まる思いです。
持ち物は新しい家族へのプレゼント、ダイナソー恐竜のぬいぐるみです。
「◯◯ちゃんの生い立ちを説明します」
子供の待つ乳児院に行く前に僕達は児童相談所に行き、初めて子供の生い立ちを聞かされました。
それまで聞かされてた事は子供の性格や病気など健康面が主で、具体的な踏み込んだ話は聞かされてませんでした。いくらマッチングするとしても彼の本当の母の事、父の事、彼が乳児院に引き取られるようになった経緯、それは個人情報の観点からか、面会当日迄明かしてくれませんでした。
「以上が◯◯ちゃんの生い立ちです。これを聞いてまだ家族になろうという気持ちは変わりませんか?」
児童相談所の職員さんの言葉が重くのしかかって来ました。
初面会に同席してくれてる、僕達を子供の家族に推薦してくれた支援団体のジャッカルさんも僕達を見守ってます。
プレゼントの恐竜のぬいぐるみをギュッと握りました。
恐竜の可愛いぬいぐるみ姿に僕の査定は最初は不可でしたが、家を出る時はもうバッチリ。きっと気に入って貰える。不安が確信になりました。
初めて会う子供とも最初は家族となるにはギクシャクするかもしれませんが、きっと恐竜のぬいぐるみのように、サクッとはまるようになる。
「ダイナソー…。いや、大丈夫です」
児相の職員さんもジャッカルさんもニッコリ笑いかけてくれました。
こうして僕達は新しい家族のダナソーちゃんが待つ乳児院に着きました。
暖かな木のぬくもりのある建物の中に入ると、
「お待ちしとりました」
エプロンを付けた先ほど迄子供の面倒を見ていただろう乳児院の職員さん。
温かく出迎えてくださり、そのまま控え室に。
「子供を呼んで来ますね」
まるで旅館の女将さんのようにニコニコ笑顔を向けて、そそくさとダナソーちゃんを呼びに行きました。
控え室の畳の間が一層旅館感を引き立ててます。
いよいよ…
奥さんと僕はお互いの手をギュッと握りました。
「お待たせしました」
女将さんがドアを開けました。
見ると、保育士さんに連れられた子供がまんまるな眼を僕達に向けてます。
ダイナソー…。
これが僕たちの新しい家族との出会いでした。