訪問保育1日目
正直告白します。
以前は産後鬱や育児に悩む母親がいるっていう話が理解出来ませんでした。
そんな親が事件を起こすニュースを他人事のように眺めてました。
だって大事な子供です。
ちょっとヤンチャしたって可愛いで軽く流せると思っていました。
でも今は育児に悩むお母さんの気持ちが凄く理解出来ます。
育児は孤独。子供に振り回され、親としての責任に板挟みになってもうヘロヘロ。
専業主夫の僕の現在は今そんな感じですが、これも変に慣れて初めて遊んだ時を忘れてしまったからでしょうか?
「あ、お父さんが主に通われるんでしたよね」
乳児院への訪問保育1日目。
受付に来た僕に保母さんはサラッと返しながらも、席を立って奥に行きました。
おそらく他の職員さんに確認しに行ったんでしょう。
なるほど。そりゃ初日にオッさん1人で訪問保育に来たら、念のため確認するわな。
うちは奥さんが働いて、僕は主夫。
養子縁組の為になった新米主夫だけど、子供が安心して家族に馴染めるよう、僕が頑張らねば。
新しい家族と暮らすと決めたんですから当然です。
「はいダイナソーちゃん連れて来ましたー」
職員さんに連れられて来たダイナソーちゃんはもじもじ僕を見ています。
「おはよう」
挨拶をしてももじもじしているダイナソーちゃん。
「いっといで」
職員さんに背中を押され漸く僕の傍に来てくれました。
僕は早速高い高いをしてあげるとすぐ喜んでくれました。
「今日は一緒に公園に行ってもらいます」
「分かりました♪」
「お父さんと2人で」
2人…
いきなりのマンツーマン保育。
のんびり構えてたので緊張が走りました。
「コッチ」
ダイナソーちゃんは楽しみにしてくれたようでよく遊ぶ公園に案内してくれるようです。
僕は抱っこしたままお外に連れ出しました。
「コッチ」
乳児院から出ると小さい手で指刺し僕を案内してくれます。
「コッチ」
「あ、ここ真っ直ぐね」
「コッチ」
「あ、ここ曲がるのね」
「コッチ」
「ん…?」
「これ…」
ダイナソーちゃんはなっちゃんのリンゴ味を恥ずかしそうに刺してます。
あ、公園行く前に先ずはコレね。
可愛い道案内に僕の緊張も一気に溶けました。
まだコロナの影響で、子供に何か食べ物などを与えてはいけないんでしょうが…
「みんなに内緒やで」
乳児院にその辺りを確認してない事をいい事になっちゃんを買ってあげました。
おそらく初めて自動販売機のボタンを押したダイナソーちゃんはとても喜んでくれました。
父と子の初めての秘め事を共有した僕達は、公園に着くと早速ブランコに乗せました。
「押してー」
「よーし」
「もっと押してもいいよー」
「よーし」
「強く押さんとってー」
あまりの嬉しさにブランコを大人押ししたのを危険に感じて、ダイナソーちゃんは慌てて父を注意しました。
ごめんと謝る僕をダイナソーちゃんは笑って許してくれました。
まだ子供のペースが掴めない中、父と子の初お遊びはあっという間に終わりダイナソーちゃんを乳児院に返しました。
「ありがとうございます。ダイナソーちゃん楽しかった?」
保母さんの質問に
うん
と答えダイナソーちゃんは他の児童の輪の中に入って行きました。
「お父さん帰っちゃうよ」
保母さんは僕に気を使って言ってくれましたが、ダイナソーちゃんは次の遊びに夢中のようでした。
もっとぐずると思ったがそうでもないんだ…
ま、僕と初めての秘密を共有したんだし、これからもっと親密になって行こう。
今日の訪問保育の事を早く伝えなきゃ。
僕は奥さんの喜ぶ顔を想像しながら乳児院を後にしました。